「第伍夜」


市立病院にある螺旋階段。
真っ白な階段室のガラスのトビラ。
そして「立入禁止」の赤い札。
朝も昼も夜も蛍光燈が薄明く照らす。
夜9時、母の病室から私はこっそり抜け出した。
昼間そばに行くと、看護婦さんにおこられるから。
電気の落ちた待合ロビーの向うに螺旋階段が浮かび上がっている。
私は誰もいない絨毯張のロビーを一気に駆け抜けた。
ガラスの扉を静かに開け階段室に入った。
螺旋階段のまわりにはグルッと手すりがあり、この階からの入り口が無い。
手すりから身を乗り出し下を見た。
その下も、その下も入り口らしきものはない。
一番下はシルクを透したように霞んでみえない。
上を見ても同じだった。
誰も入れない無限に続く螺旋階段が私を見下ろす。
その時、下から白い服を着た集まりが無言で昇ってくる。
私はあわてて病室に帰った。
母はまだ寝ていた。
それからは二度とあの階段に近づかなかった。

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