「第壱夜」


 家に帰ると妹が泣いていた。
 夕日に染まった勉強部屋のベッドの上で、ひざを抱えて泣いていた。
 なぐさめても、うつむいたまま。
 理由を聞いても、しゃくりあげるだけ。
 私の方が泣きたくなった。
 「ゆり子」、階下の母の声に私は振り返った。
 もう一度妹の方を見てみると、そこには妹はいなかった。
 私は一人っ子。妹なんていないんだ。
 遠くで鐘が静かに響いた。
 より深く朱に染まった勉強部屋で、私は一人いつまでも泣いた。

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